離婚したい人も、離婚したくない人も、知ればきっと役に立つ

有責配偶者からの離婚請求について

 現在、離婚を選択するカップルは、年に約26万7000組にものぼります(厚生省 平成16年人口動態統計)。つまり、2分に1組が離婚しているという計算です。昭和54年には約13万5000件でしたので、ここ25年間で離婚件数は倍増したことになります。

 離婚に際しては、事実上も、法律上も、様々な問題が生じます。その中で、法律上の問題として最も議論されてきたのが、"自ら離婚原因を作った配偶者(有責配偶者)が、裁判で離婚を請求することができるか"ということです。具体的には、不倫をした、あるいは家を捨てて出て行った配偶者の方から、裁判に訴えて離婚することできるか、ということです。

 個人が自由なライフスタイルを選択することが重視される現代において、どのような場合に法が離婚を認めるかいうことは、大変重要な問題です。今回は、この「有責配偶者からの離婚請求」について、法の定める離婚制度の内容や、関連する判例などを見ながら、検討していきたいと思います。

有責配偶者からの離婚請求の可否がなぜ問題となるのか

 そもそも、なぜ有責配偶者からの離婚請求の可否が問題となるのでしょうか?その原因は、民法の規定にあります。

 夫婦が離婚することを合意し、離婚届に自書・捺印し、届出書を提出することで成立する協議離婚の場合には、離婚の原因が何であろうと、離婚することができます。
 しかし、夫婦の一方が同意しないのに他方から裁判をおこし離婚しようとする場合は、どんな理由でも離婚できる、というわけではありません。
 わが国の民法は、裁判による離婚について、「離婚原因」を定めています。この「離婚原因」がなければ、裁判で離婚することは不可能なのです。

 民法は、以下の5つを離婚原因として定めています(民法770条1項)。

  1. 配偶者に不貞行為があった場合
  2. 配偶者から悪意で遺棄された場合
  3. 配偶者の生死が3年以上不明である場合
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合
  5. 婚姻の継続が困難な重大な事由がある場合

 1号から4号までは、所定の原因があるときには、落ち度のない配偶者から離婚請求ができることを定めているのが明らかです。しかし、問題は5号です。条文は「婚姻の継続が困難な重大な事由がある場合は、裁判によって離婚ができる」と定めているのみです。「誰が」とは書いていません。したがって、「婚姻の継続が困難になるほどの重大な事由(例:浪費癖、アルコール中毒、理由のない性交拒否等)」を作り出した本人でも、離婚請求ができるように読めます。
 しかし、そう解釈すると、相手方――何ら責任がなく、しかも婚姻の継続を望んでいる配偶者――にとって、非常に酷な場合があります。離婚によって、子供の養育や家庭経済に支障が出るなど、生活に困難が生ずる場合があるからです。

判例の変遷

 このことから、かつて裁判所は、長い間、「婚姻の破綻の原因を作った有責配偶者は、5号に基づいて離婚することはできない」と判断してきました。例えば、夫が妻以外の女性と性的関係を持ち、女性が妊娠したのを機に妻と別居し、女性と同居を始めて2年後に妻に対し離婚請求をした事案で、「法はかくの如き(夫の)不道義勝手を許すものではない」として、夫からの離婚請求を認めませんでした(最高裁 昭和27年2月19日)。有責配偶者からの離婚請求を認めることは道徳に反する、という考え方が強かったのです。

 しかし、昭和62年9月2日、最高裁によって、従来の判例の流れを覆す判決が出されました。この判決の事案は、夫が妻以外の女性と性的関係を持ち、別居の末女性と生活を始めてから36年経過した後に離婚を請求した、という事案でした。この事案において、最高裁は、

  1. 夫婦の別居が、当事者の年齢及び同居期間との対比において相当長期間に及んでいること、
  2. 夫婦間に未成熟の子がないこと、
  3. 妻が離婚により精神的・社会的・経済的にきわめて過酷な状況に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がないこと、

という3つの要件を満たす場合には、例外的に有責配偶者からの離婚請求も認められるとしたのです。

 夫婦関係の修復がもはや困難である場合、有責配偶者からの離婚請求だという理由だけでこれを認めないことは、意味がないばかりか、かえって当事者にとって不都合であるという、婚姻関係の実質を重視する考え方に変わってきたのです。

 厳しい条件が付いているとはいえ、有責配偶者からの離婚請求を正面から認めたこの判決は、大きな影響を与えました。
 この判決以降、有責配偶者からの離婚請求を認める例が多くなりました。

(有責配偶者からの離婚請求を認めた事例)

  1. 別居期間が6年程度であっても、夫婦間に未成熟子がおらず、離婚に伴う財産分与も相当になされる場合は離婚を認めるとした事案(東京高裁平成14年6月26日)
  2. 別居期間が4年で、夫婦間に6歳と9歳の未成熟児がいる場合でも、夫が妻の居住を確保し、子への養育費の仕送りを続け、また、形骸化した婚姻関係を継続することが親子間の関係を悪化させるおそれがある場合は離婚を認めるとした事案(福岡高裁那覇支平成15年7月31日)

 人々の価値観、行動様式が多様化した現在、有責配偶者からの離婚請求を「不道徳」「自分勝手」と断じることができない場合もあります。また、十分な財産分与をなす等、誠意を尽くしている場合にまで離婚請求を認めないとすることは、裁判所が個人の自由に対して不当に干渉することにもなりかねません。一定の場合に有責配偶者からの離婚請求を認めてもよいとする現在の通説的な理解は、今後も変化はないでしょう。これからの問題は、「『どのような場合に』『どのような条件で』有責配偶者からの離婚請求を認めるべきか」という点です。

海外における、有責配偶者からの離婚請求の取り扱い

 海外では、有責配偶者からの離婚請求について、かなり日本と異なる取り扱いがなされています。そもそも、ヨーロッパ諸国の多くは、婚姻が実質的に破綻していれば、有責配偶者からでも離婚請求できるのが原則であるという、「破綻主義」を採用しているのです。

  • 「離婚の請求をする者に有責性があっても,婚姻が破綻していると認められる以上は,離婚請求が認容される」(フランス)
  • 「婚姻が破綻している場合には、離婚することができる」(ドイツ)
  • 「婚姻が回復の見込みのないまでに破綻してしまっている場合には、離婚することが出来る」(イギリス)

 「破綻主義」は、裁判離婚において、「配偶者が有責な行為をしたかどうか」よりも、「婚姻が客観的に見て破綻しているかどうか」を重視して判断する考え方です。
 そして、落ち度のない配偶者については、「離婚請求の相手方配偶者が,その者あるいは子に対して,離婚が例外的に苛酷な物質的又は精神的結果をもたらすことを立証した場合」には,裁判所は離婚請求を排斥する等の規定を設け、例外的に離婚できない場合を定めることによって、これを保護しているのです。

 つまり、有責配偶者の離婚請求について、原則と例外が日本と逆転しているといえます。

今後の課題

 これまで述べたように、現在の日本の裁判所は、「原則として有責配偶者からの離婚請求は認めない、しかし、厳格な条件(1. 7~8年程度の別居、2. 未成熟子が存在しない、3. 妻が離婚により過酷な状況に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がない)を満たせば、離婚することができる」という立場をとっています。

 しかし、わが国でも、海外の「破綻主義」を取り入れようとする動きがあります。「婚姻関係が回復の見込みがない程度に破綻しているとき」、具体的な例としては「5年以上継続して共同生活をしていないとき」には、有責配偶者からでも離婚請求ができるとする規定が、1995年に作成された民法改正試案に盛り込まれたのです。この規定は採用されないまま現在に至っていますが、検討すべき点であることは今でも変わっていません。

 今後、わが国においては、有責配偶者からの離婚請求はますます増えてくるでしょう。議論の方向性としては、

  1. 有責配偶者からの請求は認めるべきでないとすべき
  2. 現在のように厳しい条件付で、例外的に認めるべき
  3. 現在よりも例外の条件を緩やかにし、離婚しやすくするべき
  4. 婚姻が破綻していれば原則的に認められるとしつつ、例外的に認められない場合もあるとすべき
  5. 無条件に、婚姻が破綻していれば離婚請求を認めるべき

というものが考えられます。

 離婚についての考え方は、夫婦間や男女のあり方、親子のあり方等、いろんな価値観を反映して様々です。もしもあなたが離婚を求める側だったらどうするか。反対に、離婚を求められる側だったらどう考えるか。両方の立場にたった上で、どちらの制度がよいのか、是非考えてみましょう。


更新 2005年5月31日
      

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